漫画『悪魔くん 千年王国』(水木しげる)を読んだ感想 意外と奥深い内容とあの呪文について

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ちくま文庫から出ている水木しげるさんが描かれた漫画『悪魔くん 千年王国』を読みました。あらすじや意外と奥深い内容についての感想と例の呪文についてもお伝えします。

漫画『悪魔くん 千年王国』について

漫画『悪魔くん 千年王国』は、1970年に発表された水木しげる作品です。

水木しげるさんと言ったら、「ゲゲゲの鬼太郎」が有名ですよね。それと比べると、この「悪魔くん」はさほど有名ではないかもしれません。

「悪魔くん」の主人公は、松下一郎という小学二年生の天才少年(精神的異能児)で、この世界を平和でまともな世界へと導くために励んでいます。そんな松下少年のことを、まわりは「悪魔くん」と呼んでいるのです。

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漫画『悪魔くん 千年王国』のあらすじ

悪魔くんは世界を救うには悪魔の力が必要と考えており、そのために悪魔を呼び出す研究を日夜行っていましたが、これがなかなかうまくいきません。

そんなある日、唯一悪魔を呼び出す方法を知っているという伝説的魔術師のファウスト博士が現れ、悪魔くんと共に悪魔を呼び出す手助けをしてくれ、無事に悪魔を呼び起こすことに成功(でも低級悪魔だった)します。

さらに悪魔を手なずけるのに有効な「ソロモンの笛」をファウスト博士から受け継ぎ、徐々に増える部下(12の使徒)と共に、私腹を肥やし世界征服をたくらむ悪しきアメリカの大資本企業と戦うのです。そんな悪魔くんは、いつしか仲間からメシア(救世主)と呼ばれるようにもなります。

そんな悪魔くん率いる仲間たちは、クーデターが成功し、理想郷となる千年王国を作ることができるのでしょうか…。

悪魔くんといえば、この呪文

悪魔くんといえば「エロイムエッサイム、我は求め訴えたり」という呪文が有名です。

この呪文は、この漫画のために適当に作られたものではなく、18・19世紀のフランスで悪魔を呼び出すために実際に唱えられていた呪文で、「Eloim, Essaim, frugativi et appelavi.」に由来するそうです。

子供向け漫画と思いきや、けっこうマジなんですよね。

途中に、「黒魔術は利益を自分のためだけに使うこと、白魔術は人類全体のために用いること」といった内容のエピソードがあります。これは偉大な発見も、使い方によっては悪にも善にもなるということです。それは魔術と言えども同じだと。

魔術と聴くとネガティブな印象を持っていましたが、悪魔くんはそうした先入観ではなく、目的達成のために使えるものを使うという発想を持っています。とてもユニークな発想ですが、ハッとさせられました。

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『悪魔くん 千年王国』を読んだ感想

『悪魔くん 千年王国』を読んだ感想です。

『悪魔くん 千年王国』は、子供が読んでも少し理解に苦しむところがあり、むしろ大人向け作品といって良いかもしれません。

始めは恐ろしい子供のように感じた悪魔くんですが、天才児ならではの大きな志をもち、その目的のためにあきらめず前を向き突き進んでいく様をみるうちに、彼の魅力に気付き始め応援している自分がいました。

これは異端と呼ばれる人たちに対する偏見に対する差別について、作者が訴えたかった部分ではないかと思いました。

途中、仲間の裏切りや敵対する組織との和解・協力など、あきらめずに目標に向かうさまは、まるで自己啓発本のようでもあります。小学2年生の設定には、ちょっと無理がありますが(笑)。

今回読んだ漫画『悪魔くん 千年王国』は、意外と現代社会の闇を鋭く突いており、いま読んでもなかなか考えさせられる作品でした。

実はハッピーエンドではないのですが、バッドエンドでもなく、話はこの先も続いていく形で終わります。

それは世の中が常に変化しており、何かの問題をクリアしても、再び新たな問題が現れるかのように。それが例え国を作り替えるほどの偉業を成したとしても…。

国を守るべき立場の政治の世界も登場しますが、「まさに!その通り」といった感じで的確に捉えています。

一見風変わりな物語のようですが、アイテムを置き換えてみると、これは現代社会を表した風刺作品なのだということに気づかされます。

まとめ

他にも「悪魔くん」と名の付く作品は、水木作品の中に複数あります。また、アニメや実写版の映画もあります。

しかし、内容的に大人が読んで楽しめ、上手にまとまっているのは、漫画『悪魔くん 千年王国』(ちくま文庫)ではないかと思います。

独特なタッチの絵も、読み進めていくうちになかなか癖になってきますし、ときどきハッとする見開きページに描かれるアーティスティックなイラストに、水木しげるさんのアーティスト性も垣間見られます。

悪魔くんはゲゲゲの鬼太郎とは異なり、妖怪ではなく魔術を取り扱った作品で、また、社会性も兼ね備えた、なかなか奥の深い作品となっています。

機械があれば、ぜひ手にとって一度読んでみてください。1970年から50年以上も経った今も、さほど世の中は変わっていないことに気づかされるとともに、本当に大事なことは何なのかを今一度考えるきっかけを与えてくれることと思います。

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