高齢者の多剤併用(ポリファーマシー)問題 意図しない副作用により起こる「薬物有害事象」のリスク
近年になり多剤併用(ポリファーマシー)により、意図しない副作用により起こる「薬物有害事象」のリスクに注目され始めています。特に高齢になると、複数の病院にまたがって診療を受けることが増えてくるため、多剤併用となり薬物有害事象を起こすリスクが増えてきます。私も身近でこの薬物有害事象と思われる経験をしたことがあるだけに、非常に気にすべき課題だと思っています。多剤併用とは何か、なぜ起こるのか、どうすれば良いのかといったことを、お伝えいたします。この機会にぜひ知っておいてください。
もくじ
多剤併用とは
多剤併用という言葉があります。
これは「ポリファーマシー」とも呼ばれているものです。
「ポリ」とは複数を意味することばで、「ファーマシー」は調剤を意味しますので、ここから薬の多剤併用(服用)等と訳されます。
しかし、この「多剤併用」は、ただ単純に多くの薬を服用していることが問題なのではなく、多くの薬を服用することで薬同士のもつ効用が全く別の副作用を生むという事象を生じさせることが問題なのです。
これら多数の薬を同時に飲むことで生じる、意図しない副作用による症状や病気のことを「薬物有害事象」と呼びます。
なぜ多剤併用が起こるのか
ではいったいなぜ「多剤併用」が起こるのでしょうか。
多剤併用は、主に高齢者に起きやすい傾向にあります。
その理由は、
- 高齢になるに伴い病気が増え複数の病院へ行くようになる
- 治療の効果が見られないことで薬剤の量がどんどん増える
といったことが重なり、多剤併用が起こります。
高齢になると、例えば血圧の薬やひざの痛み止めなど、改善の見込みがさほどないものの、定期的に通院しては現状維持のために飲み続けているという薬も増えてきたりします。
そこに何か別の要因でまた病院に行き、さらに薬が増えたりすることで、5種類も6種類も薬を飲んでいる、なんていうことになりがちです。
そうしているうちに、薬の飲む量やタイミング、薬同士の飲み合わせの確認(お薬手帳等による)が曖昧になることで、多剤併用から薬物有害事象が発生していきます。
薬物有害事象のリスクは、薬が6種類を超えると急に増加するとも言われています。
薬の量が増えてきた場合は、一度調剤薬局などで飲み合わせ等の確認をすることをおすすめします。
【経験談】坐骨神経痛からパーキンソン症状そして寝たきりになった父
これは私の経験談ですが、自分の父親がまさにこの薬物有害事象に該当したケースだと思います。
地方の病院であったうえに、当時はまだあまり多剤併用による薬物有害事象などが重要視されていなかったせいか、複数の病院に通っていた父親は、毎週大量の薬を服用していました。
元々は腰痛(脊柱管狭窄症)の手術を行ったものの、術後に坐骨神経痛が発生し、その治療薬として薬を飲んでいました。その他には特に病気等は何もなく、飲み続けていた薬などはありませんでした。
その後、前立腺がんになりましたが、その薬も飲んでいました。
そうこうしているうちに、元気がだんだんとなくなり鬱的な症状が現れはじめ、それから手足の震えや歩幅が狭くなるなどのパーキンソン的な症状も現れはじめました。
そこで病院に訪れると、今度はパーキンソン病と認知症であるとの診断がなされ、さらに薬が処方されました。
普段の私は両親と遠く離れた地域に住んでいるために、病院は母が連れ添って通っており、この状況がよくわかっていなかったのですが、それでも会うたびに衰弱していく父を見て何かおかしいなと感じました。
というのも、腰の手術をする前までは、剣道の師範をしており、居合も毎週行い、趣味で米や野菜などを作るなど、私なんかよりもよっぽどパワフルな人だったからです。
そこで薬の副作用、飲み合わせなどが問題なのではないかと思い、ネットなどで薬の名前から副作用などを調べまくりました。
すると、服用している薬のなかに、副作用で認知機能の低下やパーキンソン的な症状が現れるといったものが処方されている、ということがわかりました。
そこで「一旦薬を最低限まで減らしてみては」と提案をしたのですが、本人(父)が医者の言うことを信じてやまず、また真面目な性格なので医者に言われたことはきちんとやって早く治したいとのことから、私の意見(素人だから当たり前でしょうが)などちっとも聞き入れてくれませんでした。
もっとトータルで現況を見てもらい、全体からアドバイスを貰えるようなホームドクター的な人がいればよかったのでしょうが、遠く離れて住む私にできることは限られており、そして年に数回帰るたびにどんどんと父の症状は悪化していき、最期は寝たきりになり亡くなりました。
今でも思うのですが、やはりあれは多剤併用による意図しない副作用から生じた、「薬物有害事象」であったのではないか。その思いが消えません。
ポリファーマシー外来を受信する
そんな多剤併用による薬物有害事象が、少しずつ注目されるようになってからか、現在では「ポリファーマシー外来」というものが大学病院を中心に設けられはじめているようです。
整形外科や内科など複数の科にまたがって受診等をされている場合、同じ成分の薬が重なって処方されていることが分かれば、薬が減じられることもあります。
また、薬の効き具合は人によりまちまちです。薬の量や飲み合わせ等による副作用が適正であるか、薬の量が増えたら一度チェックしてもらうことをおすすめします。
どこに相談すればよいかわからない場合は、「ポリファーマシー外来」もしくは、厚労大臣が定める基準を満たしている、「健康サポート薬局」に相談することをおすすめします。
多少お金がかかったとしても、調べてみることはとても大事だと思います。
本来、治療するための薬によって、寿命を縮めてしまっては、まるで意味がありませんので。
まとめ
複数の病院を受信することで服用する薬の量が増えてしまうことを、多剤併用と言います。
多剤併用は各薬の量を見間違って服用してしまうことで、「薬物有害事象」を起こしやすくなります。
特に高齢になると、通院する病院の数や服用する薬の数が増えるため、多剤併用となり薬物有害事象のリスクが高まります。
薬物有害事象のリスクは、薬が6種類を超えると急に増加するとも言われています。
同じ成分の薬が重なって処方されていないか、飲み合わせ等による副作用が発生しないかなど、薬の量が増えて多剤併用を行っている方は、「ポリファーマシー外来」もしくは、「健康サポート薬局」にて、いちど服用している薬についてのチェックをしてもらうことをおすすめします。